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架空の国に起きる不思議な戦争――戦場の傷とともに生きる兵士たち
津久井良充・市川薫 編著

 今日では、悲惨な戦争は国家のおこなう武力衝突だけではなく、テロやサイバー攻撃、経済戦争などの形をとって、わたしたちの日常に潜んでいる。世界の様々な地域で「文化の多様性」と「異文化の他者との共存」が可能であるかが問われている。ヨーロッパではイスラム系の移民二世や三世の若者たちが不当な差別をうけて、その精神に深い傷を負っているという。もし未来に希望がないのなら、自分を受け入れない人間社会の崩壊を目撃するのが、若い世代の暗い願望となるのかもしれない。わたしたちはそれを見過ごしてよいのだろうか。
 いまの世界は混沌として、多くの価値観がせめぎあっている。ますます貧困と格差が広がるなら、様々な他者との相互理解は成り立たないのではないだろうか。複雑で、不確かな、先の見えぬ閉塞状況の下で、人々は自由を謳歌するだけではなく、社会秩序を脅かす者たちの処罰を叫んでいる。限りない自由と、永続的な秩序の確立という二つの理念が両立するのは、おそらく不可能であろう。
 社会の矛盾。自然破壊。共同体の互助システムの崩壊。次々と、想像をこえる不条理な事件が起きる日々の現実を映しだすために、現代の小説家たちは、架空の国の時空間に、虚構と現実を織り交ぜた奇妙な物語を書いている。戦争の光と闇を非現実の時空に照らしだす斬新な文学は、ほかでもない「小説」によってしか成しえないものであろう。非リアルな文学空間に生まれる、革新的と言いうるリアルな小説は、「世界文学への扉」へとわたしたちを導いている。

ISBN 978-4-87571-880-2
判 型 A5判 並製
頁数 335ページ
定 価 3,240円(税込)
刊行年 2017年3月



目次 

はじめに 市川 薫

 巻頭論文 来たるべき戦争
──ガーンズバック、ウェルズ、バラード 巽 孝之


第Ⅰ部 架空の国に起きる不思議な戦争

  1章 奇怪な内乱の起きる不思議な国
──コンラッド『ノストローモ』にみる祖国喪失者たちの抱く幻想 津久井良充
  2章 変奏されるアイルランド史
──ロディ・ドイル『ヘンリーと呼ばれた星』における戦争と歴史 戸田 勉
  3章 戦場のクーフリン
──W・B・イェイツの劇作品『バーリャの浜辺にて』に見る
   叙事詩英雄の戦い 伊達恵理


第Ⅱ部 未来の戦争を予言する作家たち

  4章 若き炭鉱王を脅かす見えない戦争の影
──D・H・ロレンス『恋する女たち』と愛国の叫び声 岩井 学
  5章 戦争映画の中の「音楽」と「兵士」たち 
──デイヴィッド・リーン監督の『戦場にかける橋』を観る 清水 明
  6章 核時代の到来を予言した作家
──H・G・ウェルズ『解放された世界』からヒロシマへ 一谷智子


第Ⅲ部 戦争の傷跡とともに生きる

  7章 戦場で心の傷を負う兵士たちの「それから」
──パット・バーカー『再生』を読み解く 市川 薫
  8章 【特別寄稿】 自然と向き合う人間に見えるもの
──農と食の未来と平和を思う 片岡美喜
  9章 ある現代美術家の告白
   ──戦争の傷跡から信ずべき「何か」を求めて 矢原繁長
 巻末エッセイ 世界文学への扉をあける 早川敦子

  あとがき 津久井良充

  写真・図版出典一覧 
  執筆者紹介 

  カバー装丁・扉イラスト     矢原繁長